消費型社会の転換点

トヨタ自動車が本年度の決算で4000億円を超える赤字に転落すると言う。昨年度、2兆円以上の営業利益を上げた日本最強の企業がわずか1年でこのような事態に転落するとは誰が予想しただろうか。自動車メーカーは一斉に大幅な減産に入った。今後、売り上げのさらなる減少を見込んでいるためだ。

自動車の販売が急速に落ち込み始めたきっかけは、昨年のガソリン価格の高騰である。その後、ガソリン価格は下がったものの、販売の減少には歯止めがかからなかった。アメリカの金融危機が表面化し、消費者心理を冷やしたことも一因だが、ガソリンの高騰で消費者の自動車に対する考え方が、微妙に、しかし根本的に変わってしまったのではなかろうか。

買い物にも子供の送り迎えにも自動車はなくてはならない。金はかかるが自動車は必需品で、家計はその維持費を織り込み済みだった。ところがガソリン価格が急騰し始めると、スタンドに行くたびに想定外の出費を強いられる羽目になった。それまで疑問もなく乗っていた自動車が、急に重荷になり始めたのである。折りしも世界中で環境問題が取りざたされ、多量のCO2を排出する車はその元凶の一つとされた。健康診断で肺がんの疑いありと言われた途端、それまで何の気なしに吸っていたタバコが急に怖くなるというが、自動車も、ある日突然、当たり前のものではなくなってしまったのだ。一旦、そうした意識に目覚めると、消費者はすぐに車をやめないまでも、台数を減らしたり、買い替えを遅らせようとする。メーカーにとってはまさかの販売急減も、冷静に見れば当然の結果だったのだ。

こうした消費者意識の転換は、自動車に対してだけではない。家電にせよ何にせよ、そもそも巷に溢れる商品は、どれほどわれわれの生活を豊かにしてくれているだろうか。かつて自分が始めてステレオを買ったときを思い出してみると、当時はとにかく欲しくて欲しくてたまらず、毎日カタログにかじりついていたものだ。それが今ではどうだろう。店まで見に行くのも億劫で、ネットで買い物を済ませることも珍しくない。すでに巷に物は溢れているのだ。メーカーは、その程度の興味しかない消費者相手に、必死に購買意欲を喚起しようと涙ぐましい努力を続けているのである。

先進国ではすでに物やサービスが供給過剰になっている。サブプライムローンは、購買力のない低所得者層に無理やり住宅を売ろうとして破綻したが、最近の世界経済は、極論すれば、要らないものを無理やり売りつけることで成り立っているのである。伸びきった腰は、砕けるときはもろい。

現代の大量消費型社会が石油に支えられていることを忘れてはならない。物質的な豊かさを追い求める時代は、すでに終わっているのである。今回の不況は、資本主義社会に本質的な転換を迫っているのだ。にもかかわらず給付金をばら撒く程度の対策しか持ち合わせていないとなると、先行きは相当暗い。

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