ネット新世代

 このところスマートフォンの無料通信ソフト、LINEが急速に広まったことにより、中高生の間では、いわゆる既読スルー(KS)が問題となっている。LINEではメッセージを読むと相手に既読通知が届くため、読んだらすぐに返事をしないと相手はわざと無視されたと感じることになる。その結果、メッセージを受け取ったらすぐに返事をしなければならないという強迫観念が常に中高生たちを覆い、大きな精神的な負担となっているのだ。

 同様の現象はかつて携帯メールが普及した際にもあったが、携帯メールが1対1であるのに対してLINEはグループ内の全員が同時にメッセージを受け取る。グループで情報を共有できる利点がある反面、常にグループ全員に気を使う必要があり、下手をすれば村八分にされる恐れがあるのだ。

 そもそもメールなどの短文による連絡は誤解を生みやすい。冗談で言ったことが本気で受け取られたり、好意を悪意と受け取られることもある。その微妙なすれ違いが何かのきっかけでグループ内で増殖し、特定のメンバーに対するいじめに発展することもあるのだ。

 いろいろな人間関係の中で生きてきた大人たちにとっては、LINEは単なる道具に過ぎず、既読スルーなど理解できないかもしれない。しかし、人間関係に対して免疫がななく、LINEへの依存度が過剰な中高生にとっては、その影響は計り知れないものがある。

 恐らくLINEが開発された当時は、このような状況は予想できなかっただろう。もともとFacebookのような不特定多数に広がるネットワークに個人情報上の不安を抱いたユーザーに対して、グループ内のみに範囲を限定することでより安心してコミュニケーションの場を提供することがLINEの狙いだった。しかし、個人でも不特定多数でもない「グループ」という中間的な規模が、思いもよらぬ複雑な人間関係を生むことになってしまったのである。

 スマートフォンの登場によりインターネットが身近になり、実社会で人間関係を築く前にネット社会にデビューする若者たちが急増している。ネットでの情報収集が日常的な彼らは、新聞や本はもとより、テレビにもほとんど関心がない。あらゆる情報はネットから得られると信じているのだ。

 テレビなどの旧来の報道では誰もが同じ情報を目にするため、社会がそれを監視することができた。だが、ネット社会では膨大な情報の中から各人が勝手に情報を選択し、社会的な情報の共有がない。受け手は、たまたま見た情報を信じる傾向が強くなり、それが誤りであっても気がつく術がない。誰がどのような情報を得ているのか、その情報からどのような影響を受けているのか誰にもわからないのだ。

 今後、実社会よりネット社会に先にデビューする世代が急速に増えて行く。人格はその人が育った社会環境に大きく左右されると言われるが、彼らの人格形成に得体の知れないネット社会が大きな影響を与えることは避けられない。それがどれほど深刻な事態を招くか、今はまだ誰にもわからない。

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