レディオヘッド

 8月21日、幕張で行われたサマーソニック2016に行ってきた。最大のお目当ては、スタジアム会場でトリを務めるUKが誇るオルタナティブロックの雄、レディオヘッドだ。

 高校の頃に出会ったビートルズ以来、さまざまなロックを聴いてきたが、90年代以降はあまり聴かなくなっていた。だが、10年ほど前に組まれたロック誕生50年の特集番組で90年代はオルタナティブロックと呼ばれる分野が台頭した時期だと知った。オルタナティブロックというのは、80年代ロック界を席巻していたヘビーメタルに対抗する形で出てきた音楽で、商業主義に背を向け内面的な精神性を追求しているのが特徴だった。

 早速、有名どころのバンドを幾つか聴いてみたが、自らの世界への共感を求めるようなメロディーが鼻につきなかなか受け入れられなかった。だが、そんな中でレディオヘッドは他のバンドとは一線を画していた。彼らの音楽はセンチメンタリズムを廃し、聴衆に媚びるところが一切なかった。当初は、あまりにも抽象的で乾いた音楽に戸惑わされが、そのクオリティーは間違いなく一級だった。繰り返し聴くうちに次第にその音楽世界に引き込まれ、気がつけばこれこそが自分が求めていた音楽だと感じるほどになったのである。

 バンドの中心は作詞作曲を一手に担うボーカルのトム・ヨークだ。彼の傑出した詩心とブレない精神がレディオヘッドを永く音楽シーンの最前線に立たせてきたことは間違いない。だが、他の4人のメンバーの卓越した技術と創造性がなければ彼らの音楽はありえなかった。メンバー全員の才能が結集して初めてレディオヘッドという意思を持った有機体となっているのだ。その結果、かつてのプログレッシブロックを薄っぺらく感じさせるほど密度が高く奥行きの深い音楽を生み出すことができるのである。

 とはいえ、彼らの音楽はノリのいいリズムやメロディーで観客を盛り上げるタイプの音楽ではない。ロマンティックなラブソングもない。一人で向き合って聴くにはいいが、果たしてライブ会場の聴衆は盛り上がるのだろうか。一体どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか想像がつかなかった。

 幕が開くと、まず5月に発売されたばかりの新アルバムから立て続けに5曲が演奏された。いきなり彼らの「今」をぶつけられ多くのファンは少し戸惑い気味だ。それを見透かすように名曲AIR BAGが始まる。聴衆は一気にヒートアップし、腹の底から揺さぶられるような迫力に会場全体が揺さぶられる。たが、それは決して名曲が誘う郷愁によるものではない。過去を足場にして、レディオヘッドがすでに新たな堅牢な世界を構築していることを聴衆が理解した結果なのだ。計算された展開に思わず唸らされる。

 緊張感の中に繊細なメロディーを奏で、次の瞬間には容赦のない大音響が怒涛のように押し寄せる。彼らは自らの音楽を正面から示し、溢れんばかりの創造力で観客を圧倒する。それはとてもCDで伝えられるものではない。彼らの音楽はこれほど豊かなものだったのだ。これこそ彼らのライブであり、これこそがレディオヘッドの音楽なのである。

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