衰退する日本

 先日の衆議院の解散総選挙で、希望の党の小池百合子氏は、この20年余りの日本の競争力の低下を指摘し、何とかしなければ取り返しがつかなくなると訴えていたが、覚えている人はいるだろうか。小池氏の訴えは直後に勃発した野党再編のゴタゴタによってかき消されてしまったが、バブル崩壊以降、日本の国力が衰退の一途をたどっていることは事実だ。

 選挙後、11月1日の日経新聞の1面に「瀬戸際の技術立国」と題して、日本の技術開発力の低下を示すさまざまな指標が示されていた。それによれば、基礎研究力の目安となる科学技術の有力論文の数は中国の4分の1以下で、まもなく韓国にも抜かれる状況にある。応用開発力の指標となる国際特許出願数でも今年中にも中国に抜かれるようだ。

 多くの日本人は日本はまだ技術大国だと思い込んでいるが、中国の若い人に聞くと誰もそんな印象を持っていない。なにしろ今の中国で見かける日本ブランドは数えるほどしかない。かつて世界を席巻していた日本の家電も今ではソニーあたりがかろうじて残っているだけで、それもサムソンやアップルの前では存在感が薄い。自動車はそこそこ頑張っているが、ホンダ、トヨタ、日産の販売数を合わせてもフォルクスワーゲンに並ぶ程度だ。

 確かに日本製品は不良品が少ないと評判だ。しかし、それはズルをせず真面目に作っていることに対する評価であって技術の高さに対するものではない。今や日本と言えば漫画やアニメなどのオタク文化の中心であり、安全・清潔で興味深い国ではあるが、技術大国の看板はとっくに色あせているのである。

 昨今、東芝や神戸製鋼など、次々と日本企業の不祥事が相次ぐが、そこにも技術力の低下が影を落としている。海外との厳しい競争に晒された企業はじわじわと利益を出すのが難しくなり、随所で越えてはならない一線を越えざるを得なくなっているのだ。不正規雇用の増加や格差の拡大も、そうした企業の弱体化のしわ寄せの結果といえる。

 安倍政権は苦しい輸出企業を助けるために金融緩和により円安誘導を行なった。だが、そうした優遇策はカンフル剤のようなもので、一時的に企業を楽にするが、その間に企業が変われなければ元の木阿弥である。自動車業界は最も円安の恩恵に預かって来たはずだが、結局、世界的な電気自動車への転換に出遅れる結果となってしまった。自動車もダメとなると日本の衰退はいよいよ深刻なものとなってしまう。

 現在、ネット関連の技術は黎明期を経て新たなI o Tの段階に入りつつある。AIにおける革新はそれにさらに拍車をかけるだろう。そうした技術やサービスに対する投資の規模もかつてとは桁違いの大きさになっている。日本はそうしたダイナミックな動きに全くついていけてないように見える。

 こうした事態に陥ったのは、豊かさに安住しリスクを取った挑戦を避けるようになったからではないか。確かに小池氏の言う「日本のリセット」は喫緊の課題なのだ。もっともそれをどうやって実現して行くかは容易ではないのだが。

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