何事も一見順調に見えるときほど、隠れたところで問題が蓄積されているものだ。

 史上稀に見る急速な発展を成し遂げてきた中国だが、そこにはいくつかの理由がある。1978年、当時の国家主席、鄧小平の号令のもと改革開放政策が始まった。しかし、政治体制の違いやインフラの不備などにより当初は海外からの投資はなかなか進まなかった。だが、WTOに加盟した2000年頃から投資は加速し海外の技術を急速に吸収し始める。これにより中国は技術開発の時間を大幅に短縮し短期間に発展できたのである。

 さらに共産党一党支配の下ではインフラ整備が非常に効率的だ。市民がごねると立ち退きが滞り道路建設がストップしてしまう他の資本主義国家に比べ、国家が描くデザインに従いインフラ整備が速やかに進む中国では同じ予算を投じても効率が桁違いに良いのだ。

 企業の発展においても国家の指導のもとに無駄な競争を避け、効率の悪い企業は容赦無く潰して来た。その結果、瞬く間に世界有数の企業が多数育ってきたのだ。 

 習近平が国家主席になった2013年にはGDPはすでに日本を抜き世界第2位となっていた。その後も中国の勢いは止まらず、習主席が2期目を迎えた2018年にはアメリカに迫る大国に成長していた。経済規模だけでなく技術的にも多くの分野で世界のトップレベルに達し、生活文化も先進国と遜色なくなった。もはや世界一の覇権国家になる日も遠くはないという雰囲気にあふれていた。

 一方で習主席は就任以来、腐敗撲滅の旗印のもと政敵を次々と粛清し、自らの政治基盤の強化に努めてきた。国民もかつての貧しい中国を世界トップレベルまで引き上げてくれた政府を評価していた。共産党の管理に息苦しさも感じるが、もっと豊かになれるならやむを得ないと考えていた。

 そうした状況に自信を深めたのか、習主席は2018年の3月、憲法改正に踏み切り、それまで2期10年だった国家主席の任期を撤廃してしまったのだ。だが、これに対して普段あまり政治に関心を示さない中国市民がSNSを通じて一斉に批判した。国家主席の任期はかつて毛沢東への権力集中が進み過ぎ文化大革命の悲劇を招いたことへの反省から定められたものだった。市民の頭にはかつての忌まわしい記憶が蘇ったのだ。

 そうした矢先、思わぬ方向から別の強烈なパンチが飛んできた。アメリカが仕掛けた貿易戦争だ。もちろん中国もそうした攻撃に対し永年備えてきた。だが、今や世界中の産業が中国に依存し、どの国であれ敵対すれば自分の首を絞めるだけだという楽観論が支配的だった。だが、中国の拡大に対する世界の警戒感は想像以上に高まっていたのだ。

 現在中国では、他国ではスタンダードとなっているGoogleYouTubeが国家によって規制され使えない。これまで中国の国家体制は奇跡の発展の原動力となって来た。だが、さらなる拡大の前には体制の違いという壁が立ちはだかる。それに対して果たして中国はどう動くのか。中国の発展、そして世界の行方は、今、大きな転機を迎えているのである。

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