EASTEINの響

しばらく前から家内の実家で内輪のミニ音楽会(公開練習会)を始めたのだが、我が家から運んだ古い電子ピアノの音がひどく、かつ弾きにくいのが悩みの種だった。そこで、先日、思い切って中古のピアノを買うことにした。

諸事情あってあまりお金はかけられない。ネットで出物を探してみたが、なかなか意にかなったピアノは見つからなかった。だが、2週間ほど経った頃、あるオークションサイトで格安のピアノが出品されているのを見つけた。

早速、家内と一緒に畑に囲まれた出品者の家を訪ねた。そのN氏の本業はフリージャズドラマーで、副業で要らなくなったピアノを引き取り修理して格安で提供しているようだ。自身のドラムも木をくり抜いて自作したものだと言う。

まず10台ほどの未整備のピアノが所狭しと置かれた倉庫に案内された。そこにはオークションでも見かけたEASTEIN(イースタイン )もあった。

今では日本でピアノといえばヤマハかカワイ製だが、戦後しばらくは他にも多くのピアノメーカーがあった。現在ではそのほとんどが姿を消してしまったが、そうしたメーカーによって作られたピアノの中には今でも評判の名器が存在する。東京ピアノ工業のEASTEINもそうしたピアノの一つだった。

ピアノの音というのは個々でかなり違いがある。だが、我々が楽器店で触る機会のあるヤマハやカワイのアップライトピアノの音はなんとも面白みがない。今回は年代を経たさまざまなピアノに触れられる滅多にない機会だ。好みの音色のピアノに出会えないものかという密かな期待があった。

EASTEINの象牙の鍵盤を押してみると、奇しくもその音色は僕好みだ。ただ、傷みがひどい。鍵盤蓋は何か高温の物が置かれたのか表面が溶けている。足は犬にでもかじられたのか大きく削れている。N氏は、修理には手間がかかり過ぎるため、あくまでも部品取り用で修理はしないと宣言していた。

やむなくすでに修理済みの他のピアノを見せてもらったが、なんとも先ほどのEASTEINが気に掛かる。N氏もこちらの熱意に圧されたか、最後には最低限の整備でよければということで修理を引き受けてくれることになった。

2ヶ月後、修理を終え見違えるようになった超重量級のEASTEINが家内の実家に運び込まれた。N氏の話では、外見はひどかったがアクションや弦など内部の状態は思いのほか良かったようだ。

2度の調律を経てEASTEINはついにその味のある音を響かせた。それは爽やかで、僕は背中を押されるように感じた、「さあ表現したまえ!」と。

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