尖閣問題の意味するもの

この10数年の間に中国は急速な経済発展を遂げたが、それを可能としたのは改革開放政策による外資の導入だった。自力の産業の育成には時間がかかる。中国は自国の労働力を提供する代わりに、海外企業を国営企業との合弁という形で取り込み、短時間で先進国の優れた技術やサービスを吸収してきたのである。

その際、人民政府が最も警戒したのが、先進技術は海外企業に握られたまま労働力のみを提供する経済植民地化だ。出来るだけ早く技術を吸収し、外資には早々に出て行ってもらうのが政府の目論見だった。だが、国営の合弁企業は政府の保護下で、海外技術に依存する体質が身に着いてしまった。リスクを犯して自ら技術開発するより、海外から吸収するほうがはるかに楽だからだ。しかし、その結果、世界第2の経済大国に躍り出たにもかかわらず、世界をリードする先進技術やブランドはほとんど無く、先進国の下請けに甘んじる構造から脱却できないでいる。にもかかわらず平均賃金は大幅に上昇し、国際競争力が低下し始めている。人民政府の焦りが伝わってくる。

 さらにここに来て中国経済はもう一つのジレンマに直面している。自らの台頭は相対的に旧来の先進国の競争力を低下させる。今回のヨーロッパの経済危機はその一つの現れだ。だが、その結果、何が起きたか。発展の原動力となってきた輸出が打撃を受け、中国自らの経済成長に急ブレーキがかかったのである。小さな国ならともかく、この巨大国家が世界に及ぼす影響はあまりにも大きい。一人勝ちはありえないのだ。

 成長のかげりは国内の様々な社会問題を顕在化させている。貧富の差の拡大に伴い拝金主義が蔓延し、労働争議が頻発している。高学歴化が進み大学進学率も飛躍的に高まったが、国内企業が育たないため、卒業しても学歴に見合った職がない。豊かさを享受するごく一部の人を除けば、多くの国民が閉塞感に苛まれているのである。

社会保障のための財政負担の急拡大も大きな問題である。一人っ子政策により急速に進む高齢化がそれに追い討ちをかける。国民の間には、生活水準が先進国に追いつく前に社会問題だけが先進国並に悪化してしまうのではないかという不安が広がっている。

こうした国民の不満はインターネットによって増幅され政府を脅かしている。政府高官の汚職問題がさらに政府への不信を増大させる。経済発展とは裏腹に共産党一党独裁による国家の統治は年々困難を増し、今や綱渡り状態なのだ。

国民の不満を逸らすには、反日と領土問題は格好の材料だ。日本企業を中国市場から締め出すと脅せば、日本は領土問題で妥協せざるを得ないという読みがある。しかし、日本を締め出すようなことになれば中国自身も深刻な打撃を受けることは明らかだ。

尖閣問題は共産党政権が体制維持を図るための道具として用いている側面が強い。その背後にはこの巨大国家が抱えるさまざまな問題が横たわっており、日本はそれに巻き込まれているのだ。簡単な解決策はありそうもない。

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