去る6月30日、香港において国家安全維持法が施行され、米中のみならず世界中で一気に緊張が高まった。だが、中国を一方的に悪者扱いするだけでは事態を見誤る。
香港市民に対する強権的な対応が批判されているが、現在の中国は決して北朝鮮のような全体主義国家ではない。新疆やチベット、内モンゴルなどを除けば、中国国民には共産党に人権を侵害されているという意識は全くない。それどころか今の豊かな暮らしを達成できたのは現在の国家体制のおかげだと考えている。さらに今回、世界に先駆けコロナの封じ込めに成功した政府の対応により、これまで自国の体制に疑問を覚えていた人たちも改めて自信と誇りを感じるようになっている。
中国国内で西欧諸国以上に豊かな生活を送る北京や上海の市民にしてみれば、同じ国に属する香港市民がそれほど頑なに抵抗する理由がピンとこないに違いない。中国人からすれば、このところのアメリカの中国叩きは中国の発展に対する焦りと妬みによるもので、香港暴動では背後でそうしたアメリカが糸を引いているに違いないと考えている。内政干渉だと感じているのは外務省の報道官だけではないのだ。
かつて西側諸国は、将来中国が豊かになれば自然に民主化すると考えていた。だが、共産党政権のもとで大発展を遂げた現在、ほとんどの中国人が自国の体制を支持している。西側諸国は中国市場という甘い餌に目が眩み見通しを誤ったのだ。
すでに中国の国力はアメリカに迫り、近い将来追い越すのは確実だ。そこでアメリカはデカップリングを進め中国を孤立させ、なんとか発展のペースを遅らせようとしている。まず、中国が最も嫌がる香港・台湾問題に介入して民主主義の危機を煽り、他の西側諸国を中国から引き離す。同時にファーウエイやTIC-TOCKなどの中国発の先端技術を西側諸国からの締め出すのだ。
これに対して中国も一歩も譲らない。半導体を始めこれまで海外に依存していたハイテク技術を全て自国で賄おうとしている。世界に先駆けコロナを封じ込め、経済を発展軌道に戻した自信から、現体制の効率と強みをとことん追求していく構えだ。
先日、アメリカは安全保障も考慮して半導体産業に2.6兆円の補助金を投じると報じられた。これはまさに中国のやり方ではないか。中国の強さを徹底的に分析し、必要ならばその強みを自らも取り入れようするアメリカの必死さが伝わってくる。
冷戦時代と異なり現在の中国市民の生活意識はアメリカや日本のそれと大差ない。違うのは政治体制なのだ。とはいえ米中が追求する豊かさはこれまた似通っている。となれば、互いの体制の摺り合わせを粘り強く行い共存の道を探るしかない。