テクノロジーが生む格差

 テクノロジーの進歩は永年に渡って人々の生活レベルを向上させてきた。かつて人力でやっていた家事や仕事の多くは家電や機械が代行し、情報や娯楽はテレビやITによっていつでもどこでも手軽に楽しむことができるようになった。コンピュータはその計算能力で人間には不可能な予測や分析を可能にした。江戸時代と今の生活を比較すれば、その違いのほとんどがテクノロジーの進歩によるものであることがわかる。

 テクノロジーは企業の競争力の源だ。そのため、企業は生き残りをかけて新たなテクノロジーの開発にしのぎを削ってきた。その結果、優れたテクノロジーを開発できた企業が勝ち残り、その利潤を次のテクノロジーの開発に回すという循環によって企業は成長し経済が拡大してきたのである。

 特に20世紀後半以降は、経済におけるテクノロジーへの依存度は増し、経済戦争の実体はテクノロジーの戦争になって行った。しばらく前にアメリカがファーウェイの締め出しという行動に踏み切ったのはそれを象徴する出来事だった。なんとしてもテクノロジーで優位に立ちたいアメリカは、このままでは負けると判断し、禁じ手ともいえる行動に出たのだ。

 かつては、ある企業がテクノロジーで世界を席巻したとしても、その後、それが波及することで世界中が潤った。たとえ他の企業があるテクノロジーで先行したとしても、自分たちにも強みがあり、互いに共存していくことが可能だった。だが、最近ではトップと2番手以下の差があまりにも大きくなってしまい、先頭を走っている企業以外はすべて負け組になってしまう。

 戦争に勝つためには緻密な作戦を立てることが必要だが、その作戦が高度になればなるほど、一人の勝者が全てを取る傾向が強まる。高度なテクノロジーは同時にテクノロジーの戦争における作戦をも高度化していく。今の世界で起こっているそうした高度化された作戦においては、AIがチェスの駒を動かすように人を奴隷のように働かせることが折り込まれているのではないだろうか。最近、世界中で急速に格差が拡大している一因はそこにあると思われる。このまま行けば、テクノロジーの進歩がもたらす恩恵よりも格差による弊害のほうが大きくなってしまうだろう。

 この流れを断ち切るためには、そうした低賃金による働き方を禁止していくしかない。そうなれば、企業は自らの作戦からそうしたオプションを除外するしかなくなるだろう。もっとも、先端企業はすでに次を考えているかもしれない。つまり、今の低賃金労働者の仕事をテクノロジーで置き換えていく方法を。