悪霊

 昨年の夏、突如明るみに出たサブプライムローン問題は、今だに実態が見極められず、年が明けてもその陰は不気味に世界中を覆っている。

サブプライムローンは低所得者向けの住宅ローンで、借り入れ当初の金利を5%程度に抑え、数年後には10%以上に上昇する仕組みになっている。要するに、最初は借りやすくしておいて、後々高い金利を絞り取るサラ金まがいのローンである。しかし、数年前までアメリカでは住宅価格が年10%以上も上昇していたので、金利が上がる前に売却すれば良いと考えた多くの人がこのローンを利用した。しかし、住宅価格がいつまでもそんな調子で上がり続けるわけがない。思ったような額で売れず、そのうちに金利が上がり、返済が滞る人が急増したのである。

しかしながら、単純な住宅ローンの焦げ付きなら珍しい話ではない。問題をこれほど深刻化したのは、サブプライムローンが証券化され、世界中の金融機関やヘッジファンドがそれを買っていたためである。つまり住宅ローンが投機資金の運用に用いられていたため、ローンの焦げ付きという日常的な事件が、金融機関の莫大な損害に発展したのである。

もともとサラ金まがいのローンに100兆円を超すような巨額な金が投資されていたこと自体が不気味な話だが、サブプライムローンに限らず、最近では企業買収においても少額の資金で買収を可能にするため、買収先の資産を担保にしてローンを組み、それを証券化するという手法がしばしば用いられている。

こうして証券化されたローンは、証券会社や銀行が取り扱うさまざまなファンドに組み入れられ販売されている。個人や法人が「資産運用」のためにファンドを買ったお金は、回りまわって、例えばサブプライムローンとして住宅購入者に貸与されているのである。ただしその間には、そのお金の投資効率を高めるためにさまざまな金融的な工夫がされている。投資ではお金をできるだけ効率よく運用することが至上命題である。証券化とその信用取引は、手持ち資金の何倍もの金を動かすことを可能にし、また先物取引は、将来得られる儲けを、現在、得ることを可能にする。つまり量的にも時間的にも、投資効率を上げる手法が徹底的に追求されているのである。

もともとファンド自体は何も生み出すことはなく、勝者がいればその分だけ敗者がいる。しかし、そうした投機マネーが信用不安を引き起こし、石油価格を高騰させ、また強引な企業買収などによって、われわれの日常生活にも影響し始めている。投機に全く関係のない人たちがいつしか食い物にされ、敗者にされる時代が訪れようとしているのである。

ファンドは、決して運用方法を公開しないので、それを買ったお金がどのように運用されているかは明るみに出ることはない。現代社会においては、市場原理という名の下に、誰も実態を把握できぬまま、投機マネーという虚の経済が世界の隅々にまで浸透し、あたかも悪霊のようにわれわれの生活を蝕み始めているのである。

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