「不確定性原理」の謎

先日、日本経済新聞の一面に、「物理の基本原則にほころび 『不確定性原理』修正か」いう記事が載った。もともとこの原理は量子力学の創始者の一人、ハイゼンベルクによって1927年に提唱されたものだが、一般の人にはほとんど馴染みがない。にもかかわらずこうした記事が日経一面を賑わしたのは、その衝撃の大きさを物語っている。

「不確定性原理」とは、ミクロの世界では「物の位置と速度を同時にある精度以上に測定することはできない」というものである。これは位置と速度を決めることにより物体の運動を正確に定めることができたニュートン力学に制約を課している。しかし、なぜそのような制約が出てくるのだろうか。ハイゼンベルクの説明は以下のようなものだ。例えば、電子の位置と速度を定めるためには電子に光を当て電子を見る必要がある。しかしミクロの世界では光を当てるという行為自体が電子の速度に影響を与え、結果的に位置を正確に見ようとすればするほど速度が曖昧になってしまうのだ。

ところで量子力学では、電子は「粒子」ではなく空間全体に広がる「波」として表わされる。実はこの「波」で表された電子は、自動的に不確定性原理を満たしている。位置の正確な「波」は速度が曖昧になり、速度が正確な「波」は位置が曖昧になるのだ。

では、この「波」が電子そのものの空間的な分布を表しているのだろうか。そう簡単には行かない。電子は観測すれば決まった電荷を持ったれっきとした「粒子」であり、「波」のように広がっているわけではないのだ。

では、この「波」は何なのだろうか。N・ボーアのグループは、「波」の振幅が電子が観測される確率に対応しているという説を提唱した。空間に分布している「波」は電子自身ではなく、電子が観測される確率の大小を表しているのだ。こうして電子は、「粒子」ではあるが、どこにいるかは確率的にしかわからないということになった。従って、ニュートン力学のような軌道は定まらない。ハイゼンベルクは、このような状態の「粒子」の位置と速度の間に「不確定性原理」が成り立っていることを導いたのである。「不確定性原理」は、量子力学と観測される物理量の関係について述べた原理なのだ。

不思議なことだが、量子力学と観測の関係はこれまでにあまり正確に検証されておらず、ハイゼンベルクの「不確定性原理」が一人歩きしてきた観がある。そこに異議が唱えられても不思議はなかった。今回の報道は、以前から「不確定性原理」の不正確さを指摘していた小沢教授(名古屋大学)の理論が実験的に証明されたというものだった。

「不確定性原理」の背景になっているのは、観測するまではさまざまな可能性を持っている物理量が、観測によって一つの値に定まるという考え方である。これは量子力学を築く上での基礎にもなっている。しかしながら、そのメカニズムはどうなっているのか、それが何を意味するのかは謎のままである。「不確定性原理」は、観測という物理学の基本が何を意味しているのか未だ不確定であることを露呈しているようにも見えるのである。

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