最近、I o Tという言葉をよく目にするようになった。身の回りの様々な製品が次々とインターネットにつながることで、われわれの生活が大きく変貌を遂げようとしている。
I o Tは単に製品がネットにつながるだけの話ではない。自動車の自動運転は、自動車という従来の製品をネットを通じて制御することで実現するI o Tの代表的な例だが、ネットの向こうではコンピューターに搭載されたAI(人工知能)が運転中に得た情報を迅速に処理し、危険を回避するための指示を常に自動車にフィードバックし続けているのだ。
街中で人型ロボット「ペッパー」が店頭に立ち接客をしている光景を目にすることがある。だが、人が彼に話しかけた言葉はペッパーに内蔵されたコンピューターで処理されるわけでない。ネットでつながれた先のAIが処理しているのである。つまり最近のI o Tの進歩はAIの急速な進化に支えられているのだ。
ネット通販で何か買おうと検索すると、その後、画面に鬱陶しいほどその関連情報が表示される。われわれがパソコンやスマホでどのサイトを覗いたかは全てGoogleなどに情報として蓄積される。ネットの向こうのAIはそうした情報からその人が何に興味がありどのような生活をしているかを分析し、その人に必要な情報を広告として提供する。さらにその広告の効果を分析・学習することで、随時、より効果的な広告の打ち方を見出していくのだ。
薬を検索すれば、その人が健康上何らかの問題を抱えているということがわかるが、それにあわせてサプリメントや運動器具を勧めるだけでなく、年齢や家族構成、他に何を検索しているかなどを総合的に分析し、ストレス解消が必要だと判断すれば、例えば薬とは一見関係のない旅行を勧める場合もありうる。
さらにI o Tによってわれわれが日頃使ってきた製品がネットにつながるようになると、パソコンやスマホだけでなくその製品を通じてさまざまな情報がAIに吸い上げられる。健康管理を助けるI o T機器を使えば、われわれの体温、血圧、さらには睡眠中の寝返りの回数やいびきの大きさまで、日夜、AIに蓄積され分析される。自動運転車に乗れば、いつどこに行き何を買ったかも全て記録されるのだ。われわれの生活に関わる全てのデータがI o Tによって記録されAIによって分析・把握されサービスに反映される。さらに、そのサービスに対するわれわれの反応を分析・学習してサービスの質を限りなく改善し続けるのである。
そうした情報収集・学習はまだ始まったばかりだが、そう遠くないうちに本人よりもAIの方が自分のことを詳しく知るようになりそうである。AIはわれわれの健康を管理し、人間関係の相談に乗り、注文しなくても必要なものを手元に届けてくれるようになるのだ。
AIによって世の中がどう変わるのかは想像がつかない。ただ、生活の利便性が高まるだけには留まらないことは確かだろう。例えば、選挙の投票行動に影響を与えたり、株や為替相場などにも深く関わってくるかもしれない。どこかの国の大統領選やその後の金融相場の予想外の動きなどを見ると、すでにAIの影が忍び寄っているのかもしれない。